オランダの工業機械工Bart Verstijnen氏が手がけたのは、単なるレストアやカスタムではなく、Honda史上最も異色なレーシングマシンの一つを蘇らせるという挑戦的なプロジェクトです。ベースとなったのは1979年に製作されたCX500プロトタイプ・フラットトラッカーで、横置きVツインエンジンを90度回転させ、シャフトドライブからチェーンドライブへと変換するという、当時としても極めて実験的な仕様を再現しています。
詳細情報:なぜCX500だったのか
Bart氏は当初、より現実的な選択肢としてビッグボア化したHonda CB350ツインエンジンの使用も検討していました。適切なフレームを調達し、マウントを製作してエンジンを搭載すればレースに参戦できる――理屈の上ではスムーズなプロジェクトになるはずでした。 しかし、Bart氏自身が語るように「あまりにも簡単すぎて、挑戦としては物足りなかった」といいます。堅実で無難なビルドは往々にして面白みに欠け、彼の探究心を長く引き留めることはありませんでした。 そこで目をつけたのが、Hondaのレーシング史の中でも異彩を放つCX500プロトタイプでした。1979年に製作されたこのマシンは、市販のCX500が採用していた横置きVツインエンジンを大胆にも90度回転させて搭載し、さらに標準仕様のシャフトドライブをチェーンドライブへと変更するという、当時のフラットトラック競技向けに特化した過激な改造が施されていました。Bart氏はこの資料を掘り下げるうちに、「これこそ自分が求めていた挑戦だ」と確信したといいます。
カスタムの見どころ・意義:エンジニアリングへの挑戦
このプロジェクトの最大の見どころは、単なる外観の再現にとどまらず、機械的な構造そのものを忠実に再構築している点にあります。V型2気筒エンジンの搭載角度を90度変更するという作業は、フレームとの干渉、エンジンマウントの設計、駆動系レイアウトの全面的な見直しを必要とする、極めて高度なエンジニアリング作業です。 さらにシャフトドライブからチェーンドライブへの変換は、リアエンド周りの構造を根本から作り替えることを意味します。スイングアーム形状、スプロケットの配置、そしてチェーンラインの確保など、通常のカスタムでは避けられがちな複雑な工程を一つひとつクリアしていく必要があります。 Bart氏がこうした困難な道をあえて選んだ背景には、「簡単な答えを求めない」という彼のビルダーとしての哲学が色濃く反映されています。既存のパーツを組み合わせるだけの安易なビルドではなく、歴史上のプロトタイプという資料の少ない題材に挑むことで、独自の技術力と探究心を形にしています。
まとめ
Bart Verstijnen氏によるHonda CX500フラットトラッカーは、単なるカスタムバイクの枠を超え、Hondaのレーシング史に埋もれていた実験的マシンを現代に蘇らせる貴重なプロジェクトです。エンジン搭載角度の変更やドライブ方式の転換といった大掛かりな改造は、既製品の組み合わせでは得られない独自性と技術的深みを生み出しています。安易な道を選ばず、あえて困難な挑戦に向き合う姿勢こそが、このビルドを特別な存在にしていると言えるでしょう。